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「小説」
伝怪

伝怪 13

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「まあ、見た目は別として、話の造形がって意味でねぇ。通り掛けの魔にヤられると、あてられて人が変わってしまう。それこそ〝別のなにものか〟にでもなったみたいに……説教くさいところを抜かせば、本当にそっくりだ。
 と、そこで先般のお話です。
 ……おや。
 なんのことかって? いやですね。役割ですよ、伝怪の役割。救済のための、って、あれですあれ。そうそう、妖怪と伝怪のおなじ側面――ってやつですなぁ。よかった、忘れられてなくて。それじゃあ、ずいぶんと横道にそれてしまいましたが。このトンカラトンと通り物を例にして、ご説明しましょうか。
 まずは、通り物。
 お嬢さんもご承知のように、こっちの方は妖怪だ。妖怪である以上、なんらかの意味がある。この話だとさしずめ、不可解なことをした人間の〝行動原理の説明〟。といったところになりましょうか。今なら〝発達障害〟だの〝ストレス性ナントカ〟だの、いろいろと病名もつくんでしょうが、あいにく精神医学なんて便利なモンは、この時代にはまだなかった。あれが確立されたのは、十九世紀の終わりころですからねぇ。
 世の中には、こんなおっかないものがいるよ。
 だからつねに、気を静めて注意しなさい。
 お経なんてのはまぁ、たいがいの魑魅魍魎には効きますが……それでもちゃんと、おまじないまで用意してある。じつに懇切丁寧な対策と方針だ。そんな風に妖怪は、人間のために悪役を買って出てくれていた。〝人間が勝手に狂った〟のに、それがあたかも『自分たちのせい』だと言わんばかりにですよ。人間っていうのは、昔からそうして〝自分はわるくない〟と言い張るモンです。これはもう、立派な救済措置ですなぁ。
 ――ところで。
 お嬢さんは、どう思います? 見ていた女房と狂った細君。この話で救われたのは、いったいどっちなんでしょう。
 いえいえ、難しく考える必要はありません。直感で答えてもらって結構ですよ。……ああ、はい。それなら〝魔に刺される〟のを逃れた、女房の方ですって? 狂った細君の方は、あてられて罪を犯したから。なるほど、そりゃそうですな。教訓を旨とする妖怪譚ですから、それはまっとうなお答えだ。
 でもね、私はこんな風にも思うんですよ。
 難こそ逃れたものの、女房も通り物には行き会っている。
 ということは、本当は女房にも〝狂ってしまいたい理由〟ってのが、こころのどこかにあったんじゃないかってね。お嬢さんも知っての通り、煎じ詰めれば妖怪なんてのはただの概念だ。でなけりゃ、最初から姿が見えるいわれもありませんから。
 そうなるともしかして、救われたのは狂った細君の方なんじゃ――そんな気も、してきたりしませんか?
 あはは、ええ、ええ……当然これは、私の勝手な言い分です。
 どんなに文献をひっくり返したところで、そんな話はこれっぽっちも出てきません。だけどね、私はやっぱりそう思ってしまうんですよ。女房にも細君にも、おなじように狂ってしまいほどの鬱屈があった。ものの話ではこの女房、借家住まいをしている理由は『火事で焼き出されたから』なんて言われてますしねぇ。
 その上、亭主は女房をほったらかし。
 これじゃあ、ストレスだって堪り放題だ。
 人間のこころなんてのは、元来とっても脆いものです。
 とんだ不幸に見舞われたあげく、銭もなければ救いもない。そんな欝々した思いを抱えながら、なんの気力もなくぼぅっと庭を眺めて亭主を待つ。どんな目に合ったって、なんの保証もない時代だ。一寸先は闇みたいなものでしょう。帰りを待つうち、いっそのこと亭主を道連れに……なんて不穏なことも、女房の頭をよぎったかもしれない。
 で、そんな時ですよ。
 荒れ放題の庭先に、不気味な老爺が現れる。
 もちろんこれは、女房のこころの闇の投影です。現実にそこに立っていたかもしれないし、立っていなかったのかもしれない。さぞかし女房は、驚いたことでしょう。もともと品行方正で生真面目な女房は、はっとして我に返る。きっとあれはわるいものだと決めつけて、対策を練る。ここでいうのは、お経というおまじないですな。
 気を静めて、というよりは。
 そうすることで、自然と〝気が静まった〟んでしょう。
 目を開くと、老爺の姿は消えていた。当たり前です。これは女房の気の迷い……弱ったこころが見せた、幻覚なんですから。
 それでも老爺――通り物は、女房のこころのうつし鏡です。
 女房が望んだからこそ、そこに姿を現した。
 たしかに、気丈に振舞ったお陰で、女房は罪を犯さず済んだかもしれない。教科書に載せるようなお話なら、これでめでたしめでたしだ……とはいえ、このあと女房はどんな人生を歩んだんですかねぇ。
 亭主は真面目に働いて、暮らしは立ち直ったんでしょうか?
 女房の抱えた闇は、無事に晴らせたんでしょうか?
 ぼっとすると、素直に妖怪に身を任せて狂っていた方が――なんてのは、まあ、詭弁ですがね。でも、そういう〝裏の解釈〟も、妖怪にはあるんですよ。これだって、ちゃんとした救済だ。狂った細君にしても、細君にヤられた人にしても、それはもう『憑りついた魔物』のせい。それで言い訳も諦めもつく。偉い学者さんにすればとんでもない冒涜でしょうが、私なんかはそう思いますよ。
 妖怪は現象ですから。
 現象は、善悪を気にしません。
 被害者も加害者も、傍観者だって均等に救うんです。
 ところが時代が流れて、世の中は文明の灯りに照らされた。おっと、失礼。これは万物の説明が、科学や医学でされるようになった……という意味ですな。
 それで、妖怪はお役御免です。よく『妖怪は闇の住人』なんていわれますが、あの闇は概念上の〝闇〟ということでもあるんですな。とにかく、そんなわけで妖怪は世の中から駆逐されて、ただの偶像になった。神秘性も威厳もなくして、キャラクターに。……それでも人間のこころからは、決して闇は祓うことができない。そこで出番になるのが、神性も畏怖も取り除いた、新たな魔物……妖怪に取って代わった、伝怪。だいぶお待たせしましたが、今ここでお話しするなら。そう。
 怪人、トンカラトンです。
 ほほぉ、これはこれは。
 そんなに身を乗りだして聞いていただけるとなると、私としても話し甲斐があるってものだ。……うん? それはいいから、早く先を? ああ、すみません。ついつい、嬉しくなってしまいまして。といっても、先程ご説明したように、こいつは極端に情報量の少ない伝怪です――多分に、私個人の見解が混じるところはご容赦ください。
 ……では。
 まずはじめに注釈しておきますと、妖怪と違って伝怪というのは嘘っぱちだ。
 いやいや、そんなに怖い顔をしないでください。現象としてという意味ではなく、〝その寓話の前提条件として〟という意味合いでのことですよ。だって、そうでしょう? もう時代は科学全盛だ。どこにも〝得体のしれないもの〟が入る隙間なんてのは、本来ならあるはずありません。ですから、伝怪は『嘘だけどこういう話があるよ?』と、そうやって楽しむ娯楽です。くり返しになりますが、〝本来は〟ね。
 ただその分、非常に柔軟になった。
 妖怪なら〝裏の解釈〟としてしか仕込めなかった一面も、『デマである』ことを前提にすることで、受け手に直接選択させることができる。善だの悪だの、小難しい理屈を織り込む必要は、ハナっからなくなったんですな。
 トンカラトンは、夕暮れ時にただそこに現れる。
 斬られてしまえば、その人間はトンカラトンになってしまう。
 そこには理由も目的も、善悪だっていらない。
 伝怪だって、現象なんですから。
 でもひとつだけ言えるのは、やっぱりトンカラトンも〝その人が必要とした〟からやってくるんです。そして、その人に言い訳する機会を与えてくれる。『トンカラトンになったんだから、仕方がない』ってね……うしろ暗いこころの闇も、犯した罪も、全部全部、肩代わりしてくれるんですよ。
 たとえばそう、いつか女性に乱暴した芸能人なんてのがいましたが。
 取り調べで言ったそうじゃないですか、『襲う欲求は襲うことでしか満たされない』ってね。もちろん、そんな理屈は許されるはずもない。とてもじゃないが、まともな人間だったらこんな勝手なことは言えるものじゃない。
 けどね。
 だから救済はいりませんか?
 病院にいけば、そりゃあ適当な病名はつけてくれるでしょう。更生するためのプログラムも組んでくれるでしょうし、場合によっては薬だって処方してくれるかもしれない。それでも彼には、烙印は押されたままだ。罵られて生きるのは当然としても、医学や科学に任せておいてはどこにも逃げ道は作ってくれない。
 人間っていうのは、身勝手でこころが脆いものですからね。
 救済がなければ、またきっと壊れますよ。
 壊れてしまえば、何度でも被害者が生まれる。ならそこに、安全装置をつけてしまえばいい。『魔が刺したんだ』『だから自分はわるくない』っていう具合にね。
 ……ああ、いえ。別に乱暴を正当化してるわけじゃ。
 ただ救済のないところには、反省も贖罪もないんです。あるのは、限界まで追い詰められた〝開き直り〟だけでしょう。文明のお陰でうわべだけ綺麗になった世の中は、負い目のある人間を容赦なく糾弾しますから。
 ――自分たちは、当事者でもないクセにねぇ。
 ふむ、それならわかる気がすると……お嬢さんは、呑み込みが早いですなぁ。ますます将来が楽しみだ。とはいえね。そんな連中にしたって、いざ自分の身がとなればなにかに救いを求めようとするモンです。
 科学じゃ説明できない、得体のしれないなにか……。
 病院じゃ治してくれない、わけのわからないなにか……。
 ひょっとすると、そのせいかもしれません。
 神も仏も、妖怪すら廃れた世の中に……いまだに根強く、伝怪なんてものが生き残っているのは。まあなんですな。名前を変えようが形を変えようが、人間のこころの闇はいつの時代も変わらない。
 トンカラトンも、通り物も、だからきっと起源は一緒なんですよ。救われたい、助かりたい……いっそ、なにかのせいにして壊してしまいたい。
 とかくこの世は、生きづらいですから。
 そういう弱いこころを掬い取る、救済措置なんでしょう……はい」

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